特定商取引法の改正でEC事業者が注意すべきポイントとは?
特定商取引法(特商法)の改正によって、いわゆる「定期縛り」の規制が強化されたことをご存じでしょうか。本記事では主にEC事業者に向けて定期縛りとは何か、改正特商法に対応しないリスク、改正の背景、改正ポイントと具体的な注意点などを解説します。
改正特商法はすでに施行されており、ガイドラインに沿った対応が必要です。本記事の内容を自社のECカートシステムの見直しにお役立てください。
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そもそも定期縛りとは?
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いわゆる定期縛りとは、初回購入費用を大幅に値引きする代わりに、一定期間の購入継続を顧客に約束させるビジネスモデルです。一般的に買い切り型の商材に比べて、定期購入の顧客獲得のハードルが高いため、初回購入費用を下げて顧客獲得を図る手法が生まれた背景があります。定期縛りそれ自体はごく一般的な販売手法であり、特定商取引法のガイドラインに沿って適切に運用している限り全く問題ありません。
特定商取引法に抵触する可能性がある定期縛りの具体例
特定商取引法に触れる可能性がある定期縛りの典型的な例は、「初回割引」「お試し」などの広告にひかれて購入ボタンを押したところ、実際は「○回購入」の縛りがある定期購入契約であり、2回目以降に高額な費用を請求されるケースです。
また、縛りがなくても「いつでも解約できる」と書いてあるのに、実際に解約しようとすると「空箱を返品しなければならない」などの細かな条件があって解約できなかった事例もあります。
他にも「別途キャンセル代を支払わなければならないケース」や「事業者と連絡がとれずに解約できない」というケースも、特定商取引法に抵触する可能性がある定期販売の典型的なパターンです。
特定商取引法に抵触する可能性がある定期縛りは、インターネットショッピングが普及した現在、EC事業を中心に増えています。特に健康食品や化粧品、飲料のジャンルは定期販売の手法が取られやすいため、トラブル事例も多い傾向にあります。リピート通販・D2C事業における定期縛りのリスク
先述した通り、定期縛りそれ自体に問題はありませんが、特定商取引法に抵触する運用を行っていた場合は様々なリスクが伴います。消費者や消費者庁、行政などから特定商取引法に触れる可能性がある定期縛りの疑いをかけられると、リピート通販、D2C事業者には次のようなリスクが生じます。
懲役や罰金
最終確認画面で表示義務違反をしたとされると、個人は3年以下の懲役または300万円以下の罰金、法人は1億円以下の罰金が科せられます。また、誤認表示したとされると100万円以下の罰金が科されます。※表示義務違反、誤認表示については後ほど詳しく解説します。
商品の損害が発生する
定期縛りとされた場合は、消費者に代金を請求する権利はなくなり、すでに支払いが済んでいた場合は返還しなければなりません。また、消費者は商品を返品する必要もなく、自由に処分できます。
差止請求を受ける
適格消費者団体(内閣総理大臣が認定した消費者団体)から、広告や勧誘、販売などの差止を受ける場合があります。
このように特定商取引法に違反すると大きな損害が出る可能性もあるため、法律の遵守と、定期縛りであっても違法性を疑われない対策が必要です。 -
改正特定商取引法とは?
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特定商取引法は、事業者による違法、悪質な行為から消費者を守るための法律です。2022年6月1日から施行された改正特定商取引法では、詐欺的な定期購入契約を結ばせる定期縛りへの規制が強化されました。改正のポイントは大きく分けると次の2点です。
1つめは購入手続きの最終確認画面等で、基本的な契約事項を明確に表示することが義務になった点です。詳しくは後述しますが、分量、販売価格・対価、支払いの時期・方法、引渡・提供時期、撤回・解約、申込期間など、6つの明示項目が設けられ、規制が強化されました。
2つめは消費者を惑わす誤認表示があった際に、消費者は申込みの意思表示を取り消せるようになった点です。例えば、最終画面で支払総額が書かれていなかったり、販売者が虚偽の情報を書いたりしたような場合は無条件でキャンセルできます。
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特定商取引法が改正された背景
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特定商取引法は消費者行動や悪質業者の手口などによって、度々改正されてきた歴史があります。近年では、2012年に貴金属を強引に安値で買い取る「押し買い」への規制強化があり、2016年には法人を次々立ち上げて規制を逃れる個人に対して業務禁止命令を出せるようになりました。
2022年の定期縛りへの規制強化は、インターネット通販での定期購入トラブルが増加傾向にあることと、サブスクリプションサービス(月額利用制、定期レンタルサービスなど)が一般的になったことが背景にあります。上記に関連した相談を多数寄せられた消費生活センターは検討委員会を通じて国に提言し、これを受けた政府は国会で改正案を成立させました。
特定商取引法に抵触する可能性がある定期縛りの規制強化の必要性は、消費者庁の下のグラフをみるとよくわかるでしょう。
出典:ちょっと待って‼ そのネット注文 “定期購入” ですよ!|消費者庁 -
特定商取引法の改正でEC事業者が注意すべきポイント
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特定商取引法の改正によって、EC事業者が重点的にチェックしなければならないのはECカートシステムです。特に定期購入に誘導する画面や、注文内容の最終確認画面では、細目にわたって注意するべき点がありますので、それらに対応できるカートシステムであることは絶対条件です。
なお、今回の特定商取引法の改正は、主に定期縛り販売を行っている事業者のルール遵守を強化するためですが、定期購入を扱うEC事業者に限らず、すべての事業者が対象となっています。定期購入以外の購入手続きについても、今一度、特定商取引法違反がないか確認しておくとよいでしょう。最終確認画面において6つの明示項目がある
特定商取引法の改正によって、カートシステムの最終確認画面では下表の6項目を明示しなければならなくなりました。以下はすべての事業者に共通の明示項目です。
明示項目 内容 分量 ・商品の数量
・役務(商品送付、サービス提供など)の提供回数販売価格・対価 ・商品の代金や送料、オプション料、支払総額など 支払の時期・方法 ・請求、支払いの時期(日付や「商品到着から10日以内にお支払い」など)、方法(クレジット決済、振り込み、代引きなど) 引渡・提供時期 ・日付や、「5日以内に商品を発送いたします」などのメッセージ 申込みの撤回、解除に関すること ・返品、解約の条件、連絡方法、連絡先などを見つけやすい位置に明記・特に電話番号は確実につながる番号を掲載する必要がある 申込期間(期限がある場合) ・申込期限を明記(季節商品、キャンペーン販売など時期によって契約条件が変わる場合)
・「本商品の発売は期間限定です。XXXX年1月31日までに御注文ください」などと記述。バナーやリンク先で詳細に説明する方法も可
出典:事業者向けチラシ「貴社カートシステムでの改正法への対応について」|消費者庁
販売側としては「いろいろな情報を表示して購買意欲をそぎたくない」という心理が働くかもしれません。しかし改正特商法に従わなければ、罰則を適用されるため注意が必要です。
定期購入の場合は追加の明示事項がある
定期購入の場合は、下表のように追加の明示項目があります。
明示項目 内容 分量 ・各回の分量(例えば初回と2回目以降で分量が違う場合は、消費者が容易にわかるように記述)
・自動更新、無制限の場合は、その旨を明記販売価格・対価 ・初回だけでなく2回目以降の代金も明記
・自動更新、無制限の場合は、一定期間で区切った支払額の明記が望ましい支払の時期・方法 ・各回の請求、支払いの時期 引渡・提供時期 ・次回分の発送時期なども明記(消費者が解約しやすいようにする意味もある)
・「初回分御注文の完了から7日以内に発送。2回目以降は、前回発送日から起算して1カ月経過する日に発送」など
追加項目は本来、消費者を守るものですが、無用なトラブルを防ぐメリットもあります。例えば「2回目から値段が上がった」「解約が遅れて1カ月分余分に支払わなければならなくなった」などのクレームを減らす効果を期待できるでしょう。
このように定期購入に特有の項目もあるため、追加忘れに注意が必要です。なお定期通販に対応しているECカートシステムのテンプレートを利用すれば、このようなミスは少なくなくなります。「プレゼント」「お試し」「トライアル」などを強調表示している
虚偽ではないものの消費者に誤解を与える表現を強調する「誤認表示」が禁止されています。例えば「プレゼント」「お試し」「トライアル」「初回無料」などの表現は記載自体が無条件に禁止されているわけではありませんが、誤認する程のフォント・配置で強調表示することは禁止です。
強調表示が禁止されている理由は、試行的な契約であると誤認する消費者や、有償契約ではないと誤認する消費者がいるからです。広告のフレーズとして安易に使ってしまいやすいため注意しましょう。「人を誤認させるような表示」かどうかは「表示の位置、形式、大きさ及び色調等」を総合的に考慮して判断される
先の「プレゼント」「お試し」「トライアル」などの表現は、無条件で禁止されているわけではありません。強調表示、誤認表示にあたるかどうかは、表示する位置やフォントサイズ、色などを総合的に判断されるからです。
したがって、誤認を与えにくい表示であれば違反にならない場合もあります。仮に初回のみ無料の場合、「初回無料、2回目以降1,000円(税込)」などの表現であれば、消費者が誤認する恐れは少なく、違反になる可能性は低いと言えます。一方、広告の目立つ位置に大きく「初めての方は無料」などと書き、2回目以降の代金を別の場所に小さく書けば、おそらく違反になるでしょう。
ただし現実的には判断がむずかしい表現もあります。このような場合は、広告制作や広告規制に関して知見を持つ業者に相談するとよいでしょう。申込確定が容易に認識できないボタンを表示している
申し込みや商品購入の確定がわかりづらいボタンを設置することも禁止されています。例えば「送信する」「OK」「同意する」のように、何が確定するのかわからないボタンです。
定期通販を行う事業者は、定期購入なのか単発購入なのかも、消費者にはっきり知らせなければなりません。特に定期購入と単発購入で商品紹介ページを分けているような場合は、消費者が勘違いしやすいため注意が必要です。
また、この規制によって強引な「ワンステップマーケティング」の多くも禁止されます。ワンステップマーケティングとは新規顧客に、いきなり定期購入を提案する手法です。消費者が購入ボタンを押す際に定期購入だと認識できない可能性がある場合は、規制対象になり得ます。一部の表示事項を申込確定ボタンの下部に表示する
明示事項を申込確定ボタンの下部に表示するのも、特定商取引法違反になる可能性があります。消費者が内容を確認する前に、申込確定ボタンをクリックする可能性が高いからです。
例えば「注文を確定する」のボタンの下部に、商品金額や送料、返品の可否などを記述すると特定商取引法違反とみなされます。したがって、基本的には申込確定ボタンの下に何も書いていない購入フォーム、Webページを作成することになるでしょう。
多くのECカートシステムは特定商取引法違反にならないテンプレートが用意されています。または注文確認画面で全ての情報を表示してから、申込確定ボタンを押す流れになっています。「いつでも解約可能」と強調表示しているが、解約方法を限定している
「いつでも解約可能」などと書く場合は十分な注意が必要です。仮に「いつでも解約可能」と大きなフォントで強調したページの下部に、小さなフォントで「解約は可能ですが、商品発送前にご連絡いただく必要があります」などと書いてあれば、特定商取引法違反となるでしょう。
故意に重要な情報を隠す手口は、詐欺的な定期購入商法でよくみられるため、消費者庁などから厳しく監視されています。解約条件だけでなく、前述した「プレゼント」「お試し」などの表記に関連した記述についても、違反を疑われないかチェックしておきましょう。例えば詳しい説明を小さい文字で書いたり、別の場所に表示していたりすれば、高い確率で規制対象になります。予め定期購入契約に申し込むよう設定する
消費者の同意なく定期購入契約に誘導するような購入手続きも規制対象になります。理由は言うまでもなく、消費者が単発購入のつもりで定期購入してしまう可能性が高いからです。
例えば、「商品購入」ボタンを押した後の注文内容確認画面において、「定期購入する」の欄に自動的にチェックが付くような処理などです。このように特段の表示がないのに、消費者の操作なしで定期購入契約に変更するのは特定商取引法違反になります。
注意が必要なのは、自社の設定ミスやプログラミングミスによって、意図せず違反してしまうケースです。したがってリピート通販、定期購入があるD2C事業では、単発購入と定期通販の切り替えに対応したECカートシステムの導入をおすすめします。「戻る」「変更」「訂正」等のボタンを表示しない
注文内容の最終画面において、確認画面に戻るボタンや、数量を変更、訂正するボタンなどがないと特定商取引法違反となります。こうした申込確定ボタンしかない画面は、消費者の意思に反して契約してしまう可能性が高いためです。
WebマーケティングのEFO(入力フォーム最適化)では、「離脱を防ぐために不要なボタンやリンクを減らしましょう」という考え方があります。しかし、購入画面で不用意にこの考え方を実行すれば、規制対象になる可能性もあります。 -
特定商取引法改正への対応はご相談ください
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特定商取引法の改正によって、EC事業者の定期購入契約の規制が厳しくなりました。たとえ悪意がなくても、知識不足やミスによって、特定商取引法に抵触するケースもあるため注意が必要です。
安心確実に特定商取引法に対応するには、定期購入に対応したECカートシステムの導入がおすすめです。弊社が提供する「侍カート」なら購入手続きやLPからの入力フォームのテンプレートが用意されているため、意図しない違反を未然に防げます。
また「単発購入→定期購入」への販促を適切に実行できるのも強みです。購入完了直前に確認画面などで定期商品を訴求でき、利用者が定期購入への変更ボタンをクリックすると選択商品が定期商品に切り替わります。消費者の誤認を生むことなくスムーズに定期購入に移行してもらえるため、安心して販促施策を実施できます。
特定商取引法改正による自社ECへの影響・対応について、具体的にECカートシステムの決済画面での表示が適切かどうかや、CRM/MAツールでの訴求内容が適切かどうか、などを相談したいEC事業者様は、株式会社FIDにご相談ください。特定商取引法をはじめ、景表法や薬機法など各法令への抵触を回避するクリエイティブ制作から、システム的な対策など、無料でご相談に応じさせていただきます。